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【スピード指数の創始者】アンドリュー・ベイヤーの考え方『努力と学習が競馬勝利者をつくる』

アンドリュー・ベイヤー著/山本尊訳『ウイニング・ホースプレイヤー』とは?

『ウイニング・ホースプレイヤー』は、“Andrew Beyer, The Winning Horseplayer : A revolutionary approach to thoroughbred handicapping and betting, Houghton Mifflin Co., 1983”の全訳である。

本書は、同じアンドリュー・ベイヤーの著書である『勝ち馬を探せ!』(メタモル出版)の、 いわば続編的存在と言ってもよい。ただ、『勝ち馬を探せ!』が、ベイヤー自身が考案したスピード指数を、実際にどう用いるのかをテーマにしていたのに対し、本書では、スピード指数では解決できなかった問題を扱う方法について論じられている。

この方法を、ベイヤーはトリップ・ハンディキャッピングと呼んでいる。トリップは本来、「旅行」という意味だが、競馬用語としてのトリップは、サラブレッドがレースの際、コースをまわってくる様のことだ。道中、その馬はペースを守って走ったのか、他馬から不利を受けなかったか、砂が深いところや芝が荒れているところを通ったため、バテたのではないか、そんなことをレース中しっかりと見定め、次走の手ががりにしようとするのが、トリップ・ハンディキャッピングだ。

「そんなことは誰だってやっている」と考えられる方もいるだろう。だが、ベイヤーも演劇にたとえて言っているように、トリップ・ハンディキャッパーは主役から端役まですべての登場人物に注意を向け、本当に強いレースをしたのはどの馬なのか見極めようとする。

ベイヤー自身は、各馬のトリップを見ることで、近走、高いスピード指数の馬でも消すことのできるケ ースがわかるようになり、コースどりによってはスピード指数が無意味になる状況も把握できるようになったようだ。
ベスト・セラー「勝ち馬を探せ!!」の”プロフェッサー”ベイヤーが、スピード・インデックスに続いて提示する新理論。競馬を”科学する”全ての本格派競馬ファンへ、A・ベイヤーが贈る勝利へのニュー・アプローチ、トリップ・ハンディキャッピングを紹介。

これまでここで2回に分けて紹介した【スピード指数の創始者】アンドリュー・ベイヤーのトリップ・ハンディキャッピングの3回目、これが最終回になります。

1回目のアンドリュー・ベイヤーのトリップ・ハンディキャッピングはこちら、2回目のアンドリュー・ベイヤーの考え方 その2『単勝にドカンと賭けるのが一番儲かるのか?』はこちらになります。

それでは最終回の3回目、アンドリュー・ベイヤー著/山本尊訳『ウイニング・ホースプレイヤー』の中から少し長いですが「努力と学習が競馬勝利者をつくる」と「傲慢と自信過剰は必ず罰せられる」を続けて読んでいただき、「職人」アンドリュー・ベイヤーの真骨頂を知っていただきたい。

馬券師の道は遠いですぞ!

アンドリュー・ベイヤー著/山本尊訳『ウイニング・ホースプレイヤー』より【努力と学習が競馬勝利者をつくる】

テリー・ブレナンが自分の人生で一番大切なことが何かわかったのは、こともあろうに、45口径のピストルの銃口を突きつけられていた時だった。
 
彼はボルチモアの療養院でガードマンとして働いていたのだが、ある日、マスクをした4人の強盗に押し入られ、縛られたのだ。そのうち3人がドラッグを探している間、あとの1人はテリー・ブレナンの頭にピストルを突きつけていた。
 
「もうこれでぼくの人生も終わりかなと思った時、ひとつだけ悔いの残ることがあったんだ。それは、ホースプレイヤーとして完全燃焼できなかったことさ」と、彼は言う。
 
ブレナンはそれまで少額を賭けて楽しむタイプにすぎなかったが、それでも、エネルギーをすべて競馬で勝つために費やすことができればと思ってはいた。
 
それでは、彼にはそれだけの才能があるのだろうか。
 
本人にも、それははっきりとわかっていなかったが、強盗に襲われたその時になって、自分自身をごまかしていたのではないかと思い始めていた。彼は言う。「ぼくは9回、職を替えた。でも、何ひとつ満足したものはない。結局、自分がなりたかったのは、プロのホースプレイヤーなんだとわかったのさ」。
 
強盗は幸運にも彼に危害を加えなかった。ブレナンはその事件後、夢を実現させようと決心した。『レーシング・フォーム』のバックナンバーを取り出し、チモニウムのシーズン開幕に備え、研究を始めたのだ。
 
生活を質素にして、資金を2000ドルに増やした。そしてチモニウムのシーズンが始まる数日前に、療養院をやめ、プロのホースプレイヤーとしての生活を始めたのだ。
 
そもそもたいていのファンは、競馬を楽しもうという似かよったスタンスで馬券を買うもので、心底、競馬に傾倒し、競馬で生きていこうというところまでの考えは持たないはずだ。だが、競馬で勝つには、結局、そうしなければならないし、ホースプレイヤーとしての自分の才能はそこまでやれば見えてくるものだ。
 
例えば、ドクは最初、“アルバイト”で馬券を買っていたが、一カ月、競馬に没頭し、自分には競馬で生きていくために必要な才能もあるし、性格も向いていると悟ったのだ。ブレナンも同じような体験をしたかったのだろう。
 
チモニウムのシーズンが始まり、最初の勝負をするのに適したレースを待っていた。彼はやっと勝負するレースを見つけ、ノーブルパイロットという馬に賭けたのだが、結局、その馬はハナ差負けだった。ブレナンは途端に動揺し始めた。「経済的なプレッシャーがぼくを混乱させ始めたのさ。もし、預金の残高がなくなれば、ぼくは路頭に迷うことになると、急に思い始めたんだ」と、彼は言う。その数日後、2回目の勝負の時を迎えたが、それも結局、写真判定で負けた。
 
「その日、家に帰った時には、すっかり意気消沈して、神経が衰弱していたよ」。それからまたもや手痛い敗北を喫し、ガックリして帰宅すると、工セックス・コミュニティ・カレッジから、新学期の生徒募集の手紙が来ていた。彼は残っているお金を授業料にすることに決めた。
 
結局、一時はとても魅力的に思えた、競馬で生きていくという考えも、自分には向かないことがわかったのだ。今、ブレナンは以前の、少額でたまに馬券を買うスタイルに戻っている。
 
誰もが、望み通り、競馬で勝てるわけではない。また、趣味ではなく、競馬を本職にしようと決意したところで、誰もが実現できるわけではない。全力を傾けたからといって、誰もが競馬で勝てるわけではないのだ。複雑ゆえに競馬で勝つことは困難だし、パリミューチュェル方式で馬券が売られているから、競馬の数学がより理解しにくいものとなるのだ。
 
けれども、その困難さゆえに、競馬を愛する人なら、少なくとも一度は心底、競馬に打ち込もうとしたはずだ。競馬は趣味としても十分に楽しめるが、競馬で勝てる知識が自分にはあると認識できるほど、満足を感じることはない。
 
それでは、ウイニング・ホースプレイヤーになるためにどうすればいいのか。
 
まず、第一段階は、ゲームが何を要求しているのかをはっきりと理解することだ。1908年、ピッツバーグ・フィルは、「特別な研究、才能がなくとも、また、努力をしなくとも成功するのが競馬というビジネスのようだ」と言っている。そして現在でも、ほとんどのホースプレイヤーも同じように思っているようだが、時代が変わった今となっては、もうそれは幻想にすぎない。
 
彼らは一週間に一度、競馬場へ行き、ゲートをくぐった時に『レーシング・フォーム』を買い、レースの前に予想すれば勝てると思っている。
 
現在、成功しているホースプレイヤーの多くが、理論的なバックグラウンドを持っているのは単なる偶然ではない。彼らは、どんな領域であれ、成功するためには研究も才能も努力も必要だということがわかって、競馬に接している。
 
ジョー・カルデロは言う。「アカデミックな世界では、研究の方法をまず学び、徹底的に分析する。そうやって、自分の研究するテーマに精通していくのだ。だから、もっと以前から、熱心に競馬を研究していれば、もっと勝つことができたはずなのにと思うよ」。
 
彼は一年のほとんど、ニューヨークの競馬場に出かけ、パドックの回りを歩いて、プロのホースプレイヤーを知ろうとする。そして、彼らの方法を観察しようとする。大きな勝負をする前に知識を蓄えようとしているのだ。また、抜け目のないポール・メロスは、一度も馬券を買わないで、一年を競馬場で過ごす。競馬のあらゆるファクターを観察して、ノートを取り(例えば、馬の蹄の形と道悪への適応度との関連)、本格的に賭ける前に準備をしているのだ。
 
このような徹底した“教育”を自分自身に課すことは、家族があり、責任のある仕事に就いていると普通はできない。だが、そんな人でも、やるべきことをやっていれば、競馬で勝つことはできる。
 

 
レーシングフォーム

アンドリュー・ベイヤー著/山本尊訳『ウイニング・ホースプレイヤー』より【傲慢と自信過剰は必ず罰せられる】

毎日毎日『レーシング・フォーム』を買って、自分のよく行く競馬場のスピード指数をチェックしておく。もし、一週間に2度しか行かないとしても、前走のリプレイを見て、各馬のトリップをノートにつけることはできる。また、夜のダイジェストで、その日のレースがテレビで放映されるなら、より正確に各馬の情報を手に入れることができる。その競馬場でよく出走させる調教師の仕上げ方についても、成績を調べれば、データを集められるだろう。

パートタイムのホースプレイヤーであっても、プロが武器としている知識を得ることは可能なのだ。

とはいえ、最良の結果を得るためには、「フルタイムのホースプレイヤーであることが必要だ。もし、職があるなら、一年のうち、1カ月はうまく両立させ、休暇の1カ月は、毎日、競馬場へ行き、自分の持つエネルギーをすべて競馬に向けることだ。

もし、時間をもっと有効に使えるなら、賭ける時の自分の精神状態をよく理解し、競馬にどう接すれば最も効率がいいかを見定めるべきだ。

例えば、ぼく自身は、競馬記者として年中、レースを見なければならないとしても、競馬だけに没頭し続けられるのは数週間が限度だ。だから、冬の1週間、夏の6週間といったように、その期間はエネルギーがなくなるまで、競馬に没頭し、残りの期間は、のんびりと競馬を楽しむか、まったくしないかのどちらかにしている。いわば普通の生活をしているわけだ。

だが、ドクはまったく逆の意見を持っていて、一年中、ずっと競馬に接している。「ぼくの信念は、“競馬場では一日たりとも逃すことなかれ”だ。こう考えたのは、ある年の母の日だった。その日、ぼくは競馬場へは行かず、母に会いに出かけようとしていたんだけど、昼近くになってどしゃ降りになってきたんだ。だから、ぼくは予定を変更して競馬場へ行くことにした。道悪の得意なスパニッシュリドルで勝負するためにね。で、やったんだ。15,000ドル勝ったのさ。一日でも行かないということは、大事なときに競馬場に居合わせないかもしれないという危険な賭けをしょっちゅうやっていることになるじゃないか」

競馬で勝つため奮闘する前に、ホースプレイヤーはある程度の銀行預金があって、経済面でのプレッシャーを感じなくていい状態でないといけない。乏しいお金では勝てない、という古い格言は、ギャンブルの世界では確かに的を射ている。

テリー・ブレナンの冒険が失敗することを運命づけられていたのも、結局のところ、資金が乏しかったからだ。1回や2回の失敗で、資金ががたつくとすると、自分のスタイルを保つことも容易ではない。馬券を買うお金は、生きていくためのお金とは切り離されていないとだめだし、そうしておけば、経済面でのプレッシャーを感じることもないだろう。せめて1、2週間、スランプが続いても、パニックにならないくらいの銀行預金は必要だ。

そして、ある時には思慮分別をもって、状況が命ずるなら大胆に、そのお金を賭けていかなければならない。

もちろん、この本で書いたようなマネー・マネージメントが適しているかどうかわからないのだから、従う必要はない。

だが、各人が自分のスタイルをはっきりとさせておかなければならない。馬券を買えば必ず記録をとっておき、自分の買い方を振り返るべきだ。ホースプレイヤーはプレッシャーをものともせず、センスを磨き、感情のブレをなくし、とりわけ、不運から自分の判断が鈍らないようにしなければならない。

すべてのホースプレイヤーにあてはまるわけではないが、自分の感情こそは最大の敵であり、自分のスタイルを崩しかねないのだ。

そしてもし、ホースプレイヤーがついに競馬で勝てるようになり、コンピュータも何百万の人間も到達できないところに達したなら、奢りたかぶらないようしなければならない。

競馬をすることでその人の欠点があらわにされるとして、最も冷酷に罰せられるのは、傲慢な振る舞いに対してなのだ。

ピート・アクスレムはある初心者に関する話をするのが好きだ。その初心者は、アケダクトでデイリー・ダブルを的中させた時、大喜びして、「こんなものだったのか。競馬なんて簡単なものだな」と叫んだのだ。それをたまたま見ていたハーベイ・パックが、払い戻しを受けようとする彼に「グッドライフ、キッド」と呼びかけたという。その日から、この若者はグッドライフというあだ名がつき、アケダクトの1階でぽつんと一人で観戦し、ついには姿を見せなくなったということだ。

アクスレムは『インサイド・スポーツ』のなかでこう書く。「その若者は、ギャンブルの女神の怒りをかったのだ。その女神を怒らせたり、刺激したりしてはいけない。彼女にしても、ギャンブラーが自身でつかみとった勝利には傷つけるようなことは決してしない。何もわかっていないのに、自分には才能があると思い上がっていると、必ず罰せられるのだ。そんな時には彼女のご用聞きが、“こいつが今、持っているお金には疑いがある”と判断し、そのギャンブラーを混乱させる状態に陥れるのだ」。

まあ、こんな女神がいるかどうかはともかく、競馬というゲームは、本質的に傲慢さや自信過剰を罰するようにできている。

機敏なホースプレイヤーの多くは、長い間、満足する結果を得ていた方法も、そろそろうまく働かないようになったなと気づくものだ。ホースプレイヤーが努力してやっと競馬で勝てるようになったとしても、その栄光のもとに停まっていてはいけない。競馬はいつもゆっくり変わっていく。
ウイニング・ホースプレイヤーはその変容をたえず観察し、自分のスタイルもそれにあわせて変えていかなければならないのだ。

さあ、ここまで読んで心が決まったら、BAOO博多へ!

ああ、心が決まらなくても、なんとなく気が向いてもBAOO博多へ!

今日も地方競馬はやっていますので!