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アンドリュー・ベイヤーのコラム『ホースプレイヤー受難の時代』

2000年4月出版のアンドリュー・ベイヤー著『マイオールドケンタッキーホーム―A・ベイヤー アメリカ競馬コラム集』から3つほどコラムを紹介しています。きょうはそのうちの2つめですね。1回目の『経済の原則を理解していない競馬場』もぜひご覧ください。

アンドリュー・ベイヤー著『マイオールドケンタッキーホーム―A・ベイヤー アメリカ競馬コラム集』より

アンドリュー・ベイヤー著『マイオールドケンタッキーホーム―A・ベイヤー アメリカ競馬コラム集』

ホースプレイヤー受難の時代 February,1992

まじめに競馬に取り組んでいる人なら誰しもそうであるように、ぼくは人生の大半を『ディリー・レーシング・フォーム』を研究してデータを分析し、レースのビデオを見ることに費やしてきた。というのも、結局のところ、一生懸命研究し、修行をして馬券を買うことによって競馬で勝てるのだ、という信念があったからだ。
 
だが最近になって、この大前提に疑問を抱き始めた。
先週、ローレルでS・A・チャンプという馬が勝ったのを見て、どれほど競馬が変わってしまったのかがわかったのだ。
 
いうまでもなく馬券で勝つことはたやすいことではない。レースの結果は無数といっていいほどの要素が複雑に絡まって成立している。これには、不運、八百長めいたこと、下手な騎乗といった予想できない要素も含まれている。とはいえ、馬券で勝てないわけではない。ホースプレイヤーは、勝つために絶対確実な方法までは必要としないからだ。パリ・ミューチュエル方式(主催者が不特定多数の人々から賭け金を集め、そこから手数料を引いた残額を的中者に分配する方法。日本の競馬はこの方式)の場合、競馬は馬券を買う人間同士の戦いであり、他の人たちより効率のいい方法を知っているなら、それだけで勝つことができるだろう。
 
過去にはこのような武器をもつことはそう難しいことではなかった。
20年前には、スピード指数、トラック・バイアス(バイアスは偏重、偏向の意味、たとえば内ラチぞいの砂が深くてそこを通った馬は伸びないなど、馬場に現れる特異性のこと)、あるいはほかにも予想する際に有効で精巧な「ツール」を知っている人はほとんどいなかった。競馬場は、あてずっぽうの勘やもっともらしい秘伝や間違った情報をもとして馬券を買っている人ばかりだったのだ。
 
でも今や、勘を頼りにするギャンブラーは、競馬よりもロトにもっぱらお金をつかっている。
ホースプレイヤーは有効な方法を紹介する洗練された書物を読んで学ぶようになった。
 たとえばスピード指数についても様々な出版物から情報を得たし、目ざとい競馬記者にも影響を受けた。また容易に過去のレースのビデオを見ることもできるようになった。
 
こうなると、利用価値があってなおかつみんなが知らない武器を見つけることは、プロにとってさえ大変なことになってくる。
けれども、メリーランド州にいるまじめなホースプレイヤーは、広く知れわたっていない知識を実際に大いに利用できるチャンスが先月巡ってきたために舌なめずりしたのだ。
というのも、1月中旬の数日間、ローレルでは強力なトラック・バイアスがあったからだ。内ラチ沿いを走った馬はまったく勝てなかった。勝ち馬はきまって外を走っていた。
ローレルパーク競馬場(Laurel Park)はアメリカ・メリーランド州ローレルにあるサラブレッド平地競走の競馬場

ホースプレイヤー受難の時代 February,1992

まじめにレースを見て分析しているホースプレイヤーはこのトラック・バイアスに気づいていた。しかし、「今日は、内ラチ沿いはダメだね」といったことをほのめかす声もなく、彼らはこの状況に気づいていない人がほとんどであると決めこんでいた。彼らはレースを注意深く見て、不利な内ラチ沿いを走っていた馬すべてをチェックしておく。そして次回出走してきた時、新聞では「前走は10馬身差の大敗」と酷評されて人気が下がるとすれば、絶好の賭けになるかもしれない。
 
一方、たまに馬券を買う人の場合、その馬の本当の力を知る手がかりがない。前走時は内ラチ沿いが不利だった期間であるということ以外に、自信をもって人気薄の馬が勝てるといえる状況ではなかったのだ。
 
けれども、不利な内ラチ沿いを通った馬が再びローレルに出走してきた時、一見したところ本当の能力は知られていない感じなのに、まずまず人気になっていたことがぼくにはわかった。みんな騙されたままではなかったのだ。そして一般の観客がどれほど抜け目がないかを、先週火曜日の第2レースは示したのである。
 
S・A・チャンプの成績を見ると、これ以上悪くなることはないくらいのものだった。前走は17馬身差で最後着。それまでの8走も、6着、10着、5着、6着、6着、5着、7着、5着。今回は、このところ注目され始めた見習い騎手、ウィリアム・ムアフィールドが騎乗する。
 
このように冴えない成績だが、この馬を支持するにはそれなりの理由がある。
S・A・チャンプの前走は、内ラチ沿いが不利であった日に、コンディションのいい外側を走った馬を相手にしてのものだったのだ。
この馬は先頭に立って、内ラチ沿いに位置し、後続に3馬身差をつけていた。結局は、ばてて17馬身差で敗れたのだが
それにこのレースぶりは実際に見ていないとわかりにくいものだったので、朝の予想オッズでは単勝16倍と、もっともと思われるあたりのオッズで落ちついていた。
 
しかし実際に窓口が開いて間もない頃、S・A・チャンプのオッズは3.5倍と一番人気になっていた。
最終的に締め切った時点では5.5倍まで下がったが、それでもこのオッズはこの馬の勝機がどれほどあるかをかなり正確に表していたであろう。
 
彼はゲートを元気よく飛びだして、コースを一周する間ライバルとずっと競り合い、結局クビ差で勝った。
 
このような類いの馬に20倍前後の配当がついた、ひょっとするとひと開催分くらいの儲けをこの馬だけで得られたのはそう遠い昔のことではない。
 
だが、観客も今では洗練されてきて、成績だけを見ればとても買えそうにない馬でさえ、掘り出し物ではなくなってきたのだ。
 
これはまじめなホースプレイヤーにとって生活をゆるがす不吉な事態だ。また、競馬産業にとってもそうだ。
というのも、競馬場にとって最高の「顧客」が生き残ることがますます困難になっているからだ。まして儲けることなんていっそう困難だ。競馬から離れる人が多くなるほど、 本当に上手なホースプレイヤーだけが生き残り、彼らの間の争いはより激しさを増していく。

ホースプレイヤーに少しだけでも復活の機会を与えるのに、唯一もっともと思える策は、結局、競馬場の控除率を引き下げることだろう。つまり、馬券の種類によって17%から25%まで幅はあるが、1ドル賭けるごとに競馬場が徴収する割合のことだ。
 
ただ不幸なことに、控除率を引き下げることについて、競馬界の意気込みはほとんど感じられない。
ホースプレイヤーは、彼らの間のタフな戦いを強いられているばかりか、高い控除率とも戦うことを余儀なくされているのだ。
 
競馬は、プロばかりがいるポーカーのテーブルに座っているようなものになってしまった。搾り取ることのできる相手や何度でも懲りずにやってくるお得意さんがいなくなると、実際のところ有利な状況を期待できなくなってしまう。そしてもしこのポーカーで胴元がみんなから17%のテラ銭をとれば、結果はわかりきっている。すべてのプレイヤーが破産し、ゲームは成立しなくなってしまうのだ。

あなたは、【あてずっぽうの勘やもっともらしい秘伝や間違った情報をもとして馬券を買】う人ではないはずです。控除率に苦しめられているのは確かとしても、ネットの普及によってまだ地方競馬には【搾り取ることのできる相手や何度でも懲りずにやってくるお得意さん】がいます。

かつて丹下段平はジョーにこう言った。

私はこう言おう。獲れ~獲るんだーYOU🫵🫵・・・なんてね。

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