ケンタッキー州レキシントンのキーンランド競馬場で行われたアメリカ競馬の祭典Breeders’ Cup 2022の2日目クラシック(ダート2000m)では圧倒的な1番人気だったフライトライン(4歳 Flightline)が最後の直線で他馬を大きく突き放し8馬身差をつけて圧勝。デビューから6連勝とし、スーパーホースの称号を手に入れました。
【速報】
— netkeiba (@netkeiba) November 6, 2022
🇺🇸BCクラシックを圧勝したフライトライン(牡4)の現役引退が発表されました。ケンタッキー州のレーンズエンドファームで種牡馬入り。父はタピット。pic.twitter.com/yOWaAQjABs
そのフライトライン(4歳 Flightline)、レース後に電撃引退が発表されました。
マイクスミス曰く、フライトラインは、今まで見た中で最強と。あのペースに挑むのは自殺行為のようだ、と。
— Mitsuoki【勝たせるレーシングコンサルタント】 (@mitsuoki) November 5, 2022
彼にそう言われると…そうなんだろう😂これぞ、タピットの爆発力というべきか。pic.twitter.com/mBs9I7pZh3
引退発表直後に米国で開催されたキーンランドセールでフライトライン(Flightline)の所有権2・5%がオークションに上場されたが、落札金額はなんと460万ドル、種牡馬としての名目上の評価額は1億8400万ドルとか。
【日本円だと…】無敗で引退した #フライトライン の初年度種付け料が発表されました!#20万ドル なので日本円だと、3000万円弱…ブラッドホースの記事だと、初年度でこの額は3冠馬 #アメリカンファラオ 以来
— 「極ウマPOG捜査官」ニッカン全力2歳馬追跡 (@gokuumapog) November 10, 2022
Flightline to Enter Stud at $200,000 https://t.co/cyfRRgrJtV via @BloodHorse
さまざまなコメントの中で「セクレタリアトに匹敵する」という声も上がっているようです。
【🇺🇸G1・BCクラシック】
— netkeiba (@netkeiba) November 5, 2022
3着テイバに騎乗した名手マイク・スミス
「彼(フライトライン)はセクレタリアトに匹敵する、私が今まで見た中で最高の馬だ!」 https://t.co/d2WBbIXhNg

これは凄い!フライトラインの引退レースをジョッキーカメラで撮影したものなんだけど、ゲートからゴールまでまるでフライトラインに乗っているような感覚だぞ!!pic.twitter.com/4wjRBvxMLG
— 競馬インフォメーションクラブ(個人で運営) (@keiba_info_club) November 9, 2022
こうしたスターホースの誕生は業界の活性化に寄与します。しかし、競走馬の悲しいところで経済動物ですから、すべては貨幣価値に換算されていくわけですね。昔なら、勝ち鞍と賞金を増やせる機会をできるだけ馬に与えるのが普通でしたが、セクレタリアト以降は競馬産業の在り方がかわったと。
スティーヴン・クリスト著『ホース・トレーダーズ―アメリカ競馬を変えた男たち』より
・・・・境に、産業のあり方が大きく変わったといっても過言ではない。
しかし、もう一つ忘れてならないのは、早期の引退を義務づけられたことである。この引退宣言はスポーツ精神とまったく関係のない立場から決められたもので、絡んでいたのは金、ただそれだけだったし、そんな決定が出されてもファンの不評を買うだけだった。それまでも競馬というゲームと馬産産業の間には一線が画されてきたが、それから十二年の歳月を経て、セス・ハンコックがデヴィルズバッグのシンジケートを組むころには、両者のギャップはさらに広がっていた。彼が四歳になったばかりの馬にシンジケートを組むのは、デヴィルズバッグが二度目であると同時に最後でもあった。
そんなことも含みながらフライトライン(Flightline)のニュースも見ると、おもしろいですなあ。
前置きが長くなりました。ベイヤーのコラム、最後の3つ目を紹介します。この項は翻訳者の山本尊さんが登場する回になります。アンドリュー・ベイヤー著『マイオールドケンタッキーホーム』より【洋の東西を問わず、競馬の本質は不変だ】をお楽しみください。

これまでのベイヤーの著作紹介はこちら
『ホースプレイヤー受難の時代』
『経済の原則を理解していない競馬場』
『単勝にドカンと賭けるのが一番儲かるのか?』
トリップ・ハンディキャッピング
『努力と学習が競馬勝利者をつくる』
洋の東西を問わず、競馬の本質は不変だ July,1990 アンドリュー・ベイヤー著『マイオールドケンタッキーホーム』より
先週、ぼくがタカシ・ヤマモトをローレル競馬場へ連れて行った時、ぼくは彼が少し戸惑いを見せると思っていた。
この29歳のターフ・ライターはそれまで日本から一度しか出たことがなく、しかも彼の英語は流暢ではなかった。
ただそれでも彼にはローレルで快適な一日を過ごしてほしかったし、馬券でも儲けてほしかった。だからぼくは、第三レースではドクターロイドという馬が堅いということをゆっくりと忍耐強く説明した。「ともかく、この馬のスピードは他馬に比べると抜きん出ている」とぼくは要約したのである。
ぼくのゲストは頷いていたが、そのレースが近づくと、「パドックへ行きます」と行って席を立った。彼は戻ってくると、首をかしげている。言葉ではうまく表現できなかったようだが、手で示したジェスチャーでは、その馬のことを細くて逞しさに欠けると訴えているようだった。馬がそんな状態であることを、アメリカの競馬用語では【tucked up】というが、彼がこのような馬に世界に誇るYENを賭けるリスクを犯さないことは明らかだった。
ドクターロイドはスタートからダッシュして2馬身のリードを保っていたものの、直線に入ると失速した。単勝1.2倍の一番人気馬が圏外に去った時、それは単にヤマモトの判断が正しかったことだけでなく、競馬に関する真理について、認識させられたのである。
つまり、競馬は文化のギャップや言語の境界を超えるゲームなのである。オーナー、調教師、生産者はケンタッキーにいようとキョウトにいようと、目標とするもの、関心のあることは多くの面で共通している。
ホースプレイヤーは地球上のどこでも独特の人種であることに変わりはない。予想のアプローチは多くの点で似通っており、写真判定で負ける悔しさはハリウッド・パークであろうとハンシンであろうと同じだろう。
予想のテクニックが万国共通になっている証拠として、ぼくの『ピッキング・ウイナーズ』が今年、日本で刊行されたのだ。
その翻訳者がタカシ・ヤマモトだった。彼がぼくにアメリカに行くプランがあることを手紙に書いてきたので、ワシントンや近くの競馬場に来るように招待したのだ。

ヤマモトは大阪の新聞社で働いている。彼の仕事について聞くと、日本における競馬産業が狂乱じみていることがわかる。アメリカで競馬のニュースや成績の両方を掲載しているのは『ディリー・レーシング・フォーム』ひとつだけだが、大阪には競馬専門紙が七紙あるという。大阪よりさらに大都市である東京では当然ながら、もっと多く競馬に関する新聞が発行されている。日本では調教がとても重要視されているという。
競馬記者も調教に関わる仕事が主になってくると話す。
「レースの三、四日前にはかなりハードな調教をこなします。そしてレース前日には適度の仕上げをする。だから夏場は朝四時に起きて五時に調教施設のあるトレーニング・センターに到着して、調教を見るんです」
「ぼくたちの新聞では、出走馬の調教は詳細に説明されてあります。手応えはどうだったのか、馬ナリか強めか一杯か。コースのどのあたりをまわったのか。調教時計も詳しく掲載されています」
ヤマモトの新聞ではハロンごとのラップが6ハロンから記されてある。
また調教を見るだけでなく、調教師にインタビューをして、彼らの管理馬がどんな状態なのかを聞く。前走で凡走したような場合、明らかな敗因はあるのか、この中間の調整はうまくいったのか。ぼくは疑いを言葉にした。
「彼らは本当に本音を話すのか?」
「いいえ」と彼は答えた。
やはりこのゲームの本質は世界のはるか離れた地域でも似通っているのだ。
けれどもアメリカ競馬の日本とは大きく異なっている2つの点は彼に強い衝撃を与えた。
ひとつめは当然のことながら前半のペースが速いことだった。「アメリカではスタートから全速力でとばし、スピードで優ればその馬が勝つ。でも日本でもしそんなことをすれば、その馬は勝てないでしょう」と彼は話す。
またヤマモトにはローレルの、広々として居心地の良いスポーツ・パレスも強く印象づけられた。
毎週、日曜日には八万人を超える観客が集まって非常に混雑する東京競馬場とはまったく対照的だ。
いうまでもなくスポーツ・パレスでは大きなスクリーンでレースの細部を見ることができるので、グランド・スタンドでナマでレースを見ることなく、一日中、過ごすことも可能だ。
ただし、日本では出走馬の実際の体つきを見ることに重きが置かれている。
「日本ではパドックへ行くファンが多い。どの馬の体調が良さそうに、あるいは悪そうに見えるかを判断したあとで、馬券を買うんです」とヤマモトはいう。
だが、大体のところ、アメリカの競馬場のシステムは受け入れられるし、理解できるとヤマモトはわかったようだ。ローレルに到着して一時間もたたないうちに『ディリー・レーシング・フォーム』を夢中に読み、ぼくのスピード指数を参考にする。そしてコースの方へ出て行ってパドックへ行き、最後にエグザクタを買うのだ。
けれども彼は馬券が当たらなかった時も、静かで冷静でいようとしており、ジョッキーを非難したりもしなかった。
ただし、日本のホースプレイヤーがそもそもおとなしいから、彼も静かなままだったのか、「まぬけな奴を吊るす」という諺をまだ彼が知らないから静かなままだったのかは、ぼくには見抜けなかったが。
ベイヤーのコラムを読んで「ホースプレイヤー」としての覚悟が決まったら、BAOO博多へ!
お金は転がっている。あとはあなたがそれを拾うか、見逃すかのどちらかだ!ご来場お待ちしております。
