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園部晃三著『賭博常習者』その3

ヘビーな競馬ファンにはぜひ読んでほしい園部晃三著『賭博常習者』からぜひ心に留めてほしい部分を紹介しています。

「百万円を二百万円にするのはたやすい」そう嘯いて他人様の懐に平気で手を突っ込み、意表を突いたケントク買いで万馬券を掴み取る。
ギャンブルの神様に魅入られた、“ろくでなし”の自伝的長編小説

園部晃三著『賭博常習者』より

・・・白髪先生は布団を半分に折ってスペースを作ってから丸まったティッシュを屑籠に捨てると、座卓のかたわらの座布団をすすめてくれた。
私は持参した焼酎のグラスを座卓に置く。
白髪先生はスコッチの瓶を拾いあげ、卓上のグラスに注いだ。その手の甲と指は白くてきれいな肌をしている。それから黒くて分厚い革財布から名刺を取りだす。
私は名乗ってから乾杯をした。 
名刺には、Y市の医院の住所とトキタという氏名が記されてある。
「君が処方されたのは、マイナートランキライザーかね」
トキタ先生はスコッチを飲んだ。
「いまはサボっていて飲んでいませんけど」
「このごろはみんな、口をそろえてストレスと言う。その意味がわかりますか」
「どういうことですか」
「人間は生まれたときにはピュアで、たとえれば脳は真っ白だということです。そこに成長とともに様々なしがらみや使命感も加わり、真っ白かった脳に黒い陰りが侵食してくると思ったらいいでしょう」
トキタ先生は二杯目のスコッチを注ぐ。
 
「その白い部分と黒い部分とのバランスが鍵で、そうだなあ、六対四くらいの割合で、白が四割くらい残っていれば、ごくごく普通な状態と言えますね」

「先生、面白いお話なので、ぼくも自分の焼酎ボトルを持ってきていいですか」
「このスコッチも、もうなくなるから、君のお酒を分けてくれませんか」
自室に焼酎セットを取りにもどった。時計は十時を回っている。
 
「社会人は自分の仕事の成果を百パーセント近く評価されたいと求めたりして、しかし、そうはいかない。せいぜい四十パーセントくらいの評価がいいところでしょう。これでは、つまり脳は真っ黒になってしまい、これがストレスとなる。わかりますか」

ここで彼は空になったグラスを私のほうに押した。そのグラスに氷を入れて焼酎を注いだ。
 
「世のなかでの自分への期待感や成果なんて、せいぜい四十パーセントあれば上等でしょう。あとは自分の余力、余暇に残しておかないと、しだいに脳のなかが真っ黒になってしまう。真面目に、一生懸命に仕事のことばかり考えていないで、自分にとって実益とは無関係なもの、たとえば趣味を楽しむとか旅行に行くとか、脳に白い部分を残してあげないと」
 
私はグラスを空け、自分とトキタ先生のグラスを満たした。
 
「これはあくまでも一つの例であり、様々な原因はあるけれど、あまり使命感だけに囚われずに、無益なものを楽しんだほうがいいです。君が釣りをやったとしても、漁師になって家族を養うわけではないでしょうし、絵を描いたとしても、画家になって大成する必要もないでしょう。きっと君は様々な責任や約束を果たすために文章を書いていたでしょうから、それで脳が真っ黒になってしまい、ちょっとパニックを起こしてしまったのかな。脳に荒波が立ち過ぎてしまったんだね。トランキールとはフランス語で「穏やかな」という意味で、荒波を凪にするのが、トランキライザー。静穏な状態にするという意味です」
 
私はうなずいてグラスの中身を空ける。
「わたしの医院にいらっしゃい。漢方を処方してあげますよ。飲まなくてもいいから、お守りだと思って肌身離さず持っていなさい。なにかあったらこれを飲めば楽になるんだ、と自己暗示にかけるだけでも随分と気が落ち着くものです。君はそんなに重症ではない。突然の発作に驚いたんだね、きっと」

トキタ先生は虚ろな眼を泳がせ、ふたたび酒を要求した。

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