岩手競馬では、2018年7月から2019年11月に競走馬計12頭からボルデノン(アナボリックステロイド/筋肉増強剤)が相次いで検出され、競馬の公正を確保するため、岩手競馬に在厩している全頭を対象として事前検査を実施するなどしたため、競馬の開催を取り止め、再開を繰り返しました。ボルデノンは運動能力や闘争心を高める効果があるとされ、使用が禁止されています。
岩手県競馬組合は盛岡競馬場と水沢競馬場の厩舎から検出したことを受け、何者かが故意に投与したと判断し、告発状を提出。
長い間、解決しないままとなっていたこの問題は、岩手県警が「国内外の事例を調べたところ、一定の温度や湿度で、保管したり使用したりしたわらから、ボルデノンを含む禁止薬物が自然発生することが判明した」として、今回の薬物も自然発生したとみて、2021年3月19日、岩手県警奥州署が容疑者不詳のまま競馬法違反容疑で盛岡地検に書類送検したことで、ひとつの節目を迎えました。
しかし、この「わらからの自然発生だった」として捜査を終結した岩手県警の判断に対し、JRA競走馬総合研究所が、完全否定する見解をまとめた文書を作成、「通常の馬の飼育環境では起こりがたい」などと記されているという。JRAは定例会見で「よほど条件がそろわない限り、こんなことは起きない」と、あらためて岩手県警の結論を否定したのでした。
ただ岩手県競馬組合は県警からの要請として保管・使用中のわらを廃棄し、代替品となる馬が口にしにくい「ウッドチップ」に変更したとのことです。
これら一連の問題で岩手競馬組合から地方競馬実施条例施行規則に基づき戒告などの処分を受けた調教師4人が2021年8月に記者会見を開き「処分は規則の解釈を誤っており違法だ」として岩手県競馬組合管理者の達増拓也知事に対し、処分取り消しを求める審査請求を行ったことも明らかになりました。つまり、調教師もこれら問題の結論に対し、納得していないということでしょう。
自然発生って言っちゃった時点で岩手の組合は自己矛盾抱えてたんだよね、この処分と。
— 須田鷹雄 (@sudatakaoshoten) December 6, 2022
あくまで競馬予想レベルの予想ですが、処分取り消しで和解するんじゃないすか。いま金ならあるし、自然発生問題を掘り返されるほうが嫌なはず。
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陽性だった馬の厩舎のわらからボルデノンが検出され、岩手競馬以外の馬にその厩舎のわらを食べさせたところ、同様の結果が出たことから、ボルデノンが含まれた敷きわらを馬が食べた可能性が高いが、わらに含まれた理由について、えさの穀物からボルデノンが検出されたスイスでの報告例はあるものの、「自然発生したと断定することは難しい」と指摘。第三者による混入の可能性も完全には否定できない・・・なんとも不可解でエエ加減な結論で幕引きを図ったというわけです。
不可解だった岩手県警の捜査終結「わらからの自然発生」は本当にあるのか? JRA競走馬総研らの見解でも可能性は極めて低く 2021年4月23日 中日スポーツ
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
2018~19年に地方競馬の岩手で計12頭から禁止薬物ボルデノンが検出された一連の事件で岩手県警は「わらからの自然発生だった」として捜査を終結した。その一方で馬に関する国内随一の研究機関であるJRA競走馬総合研究所(以下総研=栃木県)が見解をまとめた文書を作成し、各地の地方競馬関係者が共有。厩舎現場が困惑する事態に発展している。
文書は捜査終結報道の直後にあたる3月21日付。「通常の馬の飼育環境では起こりがたい」などと記されている。地全協がばんえいを含めた全国13すべての地方競馬主催者に配布した。
わらは世界中の厩舎で広く使われている敷料だ。中央競馬でも特に美浦はわら使用の厩舎が多数を占める。県警の筋書き通りであれば、公正確保のためにわらが使えないという事態にもなりかねない。JRAは19日の関東定例会見で「よほど条件がそろわない限り、こんなことは起きない」と説明。JRAの現場レベルでも複数の獣医師・研究者が「通常の管理条件では起こらない」と、口をそろえる。
県警によると“自然発生説”の根拠としたのは岩手県競馬組合から提示された海外の文献3本だが、1本は検査の精度に関するもので核心には直接関係なく、1本は「試験管内である種のカビがトウモロコシ由来の成分を発酵した時、微量のボルデノン関連物質を合成しうる」と主張するもの。トウモロコシとは無関係な現実の厩舎で、自然発生したとする説を支持する材料としては極めて弱い。残る1本は競馬関係獣医師の国際会議録(16年ウルグアイ)で、実験的に何かを証明したものではない。
岩手では調騎会が全調教師にこの文書を配布。ある調教師は「どこの厩舎も馬房は毎日欠かさず掃除している。県警の“自然発生説”は自分たちの寝わらの管理が悪かったと言われているようだし、現場の誰も納得していない」と憤る。
世界の潮流に合わせ、日本でボルデノンが禁止薬物指定されたのは98年。以降JRAだけでも約20万件が検査対象となっているが、ここからのボルデノンの検出は1件もない。2年間に12頭と集中して検出されたのは同じく馬がドーピング対象となる馬術の世界も含め世界的にも岩手のみだ。“自然発生説”に従うなら岩手には特異な環境要因があると考えるほかない。岩手では昨年から敷料を全面的にウッドチップに切り替えたが、それでその環境要因がぬぐい去られたかどうかはあらためて科学的に検証される必要がある。
総研の見解について岩手県警は「文書の内容を確認したが、県警はコメントする立場にない」、9日に被疑者不詳のまま不起訴処分とした盛岡地検は「コメントは差し控える」としている。岩手県競馬組合は「総研の文書と、捜査終結の間のことについて、組合内で議論し、今後、一定の総括をしたいと考えている」と話している。
▽地方・海外の競馬に精通したフリージャーナリスト土屋真光さん
「国内の地方競馬だけでなく、海外でも多くの競馬場で寝わらは広く使われている。海外でもわらから禁止薬物が自然発生したという話はまったく聞かない。文献を根拠に前例皆無の“自然発生”を結論づけるのは、はなはだ疑問だと思う」
こうした不可解な薬物問題に加えて、2022年のJBC開催前には、岩手県競馬組合の元業務部長がJBC絡みの汚職で逮捕されると事態も発生。
岩手競馬の広告宣伝業務で便宜を図った見返りに飲食接待などを受けたとして、収賄罪に問われた岩手県競馬組合元業務部長の斎藤和博被告(60)=休職中=は2022年11月8日、盛岡地裁の初公判で起訴内容を認めた。起訴状によると、2019年1月~今年4月、広告宣伝業務を巡り便宜を図った謝礼として、業者側から18回にわたり飲食接待を受けたほか、商品券などを受け取った。飲食費と商品代などは計約16万円。業者側の東日本朝日広告社(仙台市)の元社長(62)と社員(56)は8月、贈賄罪で略式起訴され、盛岡簡裁がそれぞれ罰金50万円の略式命令を出した。
ややこしいのは、この岩手県競馬組合元業務部長の斎藤和博被告が禁止薬物ボルデノン事件の対応にあたっていたこと。怪しい結論の対応に当たっていた人間が収賄で逮捕で、禁止薬物の第三者による混入の可能性も完全には否定できない・・・ですからねえ。

「牛のクソにも段々があるんでー」って話ですなあ。この出鱈目の博覧会はきっとまだ始末がついていないということでしょうから、このまま闇に葬られるのか、いずれ真相が明らかになるのか、いずれかでしょう。世の中は陰謀論というのが蔓延っていると報じられれているわけですが、こうした不可解な事件を知れば知るほど陰謀があるんじゃないかと疑心暗鬼になってしまいますねえ。
真相を知りようがない私たちは小説でも読んで憂さを晴らすしかないですか想像するしかないですね。

地方競馬の騎手、一色純也。中堅だが成績は三流だ。
彼が所属する北関東競馬で、競走馬から禁止薬物が検出された。
愉快犯? それとも競馬開催を妨害しようとする陰謀?
純也は恋人の競馬ジャーナリスト、沙耶香と調査を始める。
薬物事件はその後も続き関係者が揺れる中、純也にかつてない好調の波が訪れ……。
競馬に関する描写のリアルさと、ミステリーとしての切れ味に思わず息をのむ衝撃の作品。
架空の北関東競馬場と常総競馬場が舞台のこの小説、取材の成果か、随所に岩手競馬と思われるエピソードが添えられてなかなかおもしろかったです。ネタバレになるので物語の詳細は控えるとして、以下のような情景は岩手競馬でも聞いたことがあるようなエピソードでした。登場人物も「あいつのことか!」って思う描写もあり、ぜひ読んでほしい本の一つです。
島田 明宏著『ジョッキーズ・ハイ』
翌週、十月一日の月曜日、北関東競馬場と常総競馬場に在厩する全頭の二度目の薬物検査が実施された。
そして夕刻、先月と同じメンバーによる臨時運営協議会が、北関東競馬場内の北関東競馬会本部で行われた。
競馬会の出席者は、県理事の副管理者、事務局長の小此木、広報部長の槙野。
調騎会からは、会長の大杉調教師と、副会長の的山騎手。
馬主会からは、会長の前島と副会長。
進行役も、前回と同じ県の農林水産部の職員だった。
まず、競馬会から、監視カメラ設置の日取りが発表された。
十月十五日、月曜日に、北関東競馬場の厩舎エリアに百二十台を、常総競馬場の厩舎エリアに八十台を設置するという。
最初の陽性馬が出たのが八月中旬だった。二ヶ月後にようやく監視カメラを設置というのはいかにも遅すぎる。すぐに対応していれば、二週間後の二頭目はともかく、ひと月後の三頭目、四頭目のの陽性馬は出なかったのではないか。そうすれば、桜井の落馬事故も起きなかったかもしれない。
調騎会からそうした意見が出てもよさそうだったが、大杉会長の厩舎から陽性馬が出てしまったからか、いつもは威勢のいい「親分」大杉も、暗い表情で無言だった。その陽性馬の鞍上にいた「レジェンド」的山も押し黙ったままだった。
対照的に、馬主会の前島会長は生き生きとしていた。質問をする声には張りがあり、禿げ上がった額の色つやまでよかった。
「その財源はどうするのかね」
「先月の補正予算で確保した対策費が一億円あります。十分お釣りが来ます」
競馬会の小此木事務局長が応じた。
「今回、開催五日間の中止による損失額の見込みは?」
「五十五レースで、重賞もありますので、十億円ほどと思われます」
「それでも今季決算は黒字なのか」
「はい、横ばいで推移していくと仮定すれば、問題ありません」
「ところで、あの『キタカンTV」を立ち上げたのは、そこにいる槙野君だったと思うが、違うかね」
前島が急に話を変えた。名指しされた広報部長の槙野は慌てて答えた。
「はい、私ですが、何か…………」
「あの番組の年間予算は四千万円だと聞いたが、どうなんだ」
「はい、おっしゃるとおりです」
「もったいない。その金も対策費に加えなさい。あんな番組、やめてしまったほうがいい。どうせ誰も見ていないんだから」
「いや、それは…………」
「いつも出ている、何だったかな、小生意気な女。夏山だか冬山だか、訳のわからないタレント、ああいうのが厩舎地区に自由に出入りしているのも問題じゃないか。宅配業者を出入り禁止にしたなら、マスコミもシャットアウトすべきだろう。連中が犯人じゃないという証拠でもあるのかね」
誰も見ていないと言いながら、自分は見ているようだ。
さすがに「キタカンTV」の打ち切りは却下されたが、マスコミ関係者も当面の間、厩舎エリアに出入り禁止とすることが、この場で決められた。
臨時運営協議会での決定事項は、その夜、プレスリリースとして発表された。
沙耶香は、それを見てぷりぷり怒っていた。
何が気に食わないのかと思っていたら、こう言った。
「明日、議事録が出る前に協議会でどんな話が出たか知りたかったから、的山さんにICレコーダーを渡して、全部録音してきてもらったんだ。今、それを聴いたら、馬主会の前島会長、私をコケにして、好きなこと言ってるのよ」

陰謀論に飽きたらBAOO博多で地方競馬をお楽しみください。